地震被害調査 令和6年(2024年)能登半島地震
公開日:2024年07月31日
最終更新日:2024年08月09日
はじめに ~本調査の目的と概要~
あらためて、被災地のみなさまにお見舞い申し上げます。
本調査は、2024年1月1日に発生した能登半島地震における木造住宅の被害状況の分析を目的として、石川県輪島市、七尾市、穴水町を中心に、行ったものです。
歴史的には、昭和の時代に新潟県や福井県では大地震があったものの、石川県や富山県では発生しておらず、石川県は、比較的地震の少ない地域とされてきました。 ところが、近年では、2007年に震度6弱の地震があり、2020年からは、震度5弱~6強の大きな地震が数年おきに発生。そして、2024年1月に震度7の大地震が発生しました。 この結果、死者数260名、建物の全壊・半壊の被害は3万棟にのぼり、道路をはじめとするインフラにも甚大な被害がありました。さらに、奥能登地方は、能登半島の中でも 奥まった土地であるため、被災地に入りにくいことから、復旧が遅れたといわれています。2024年7月末時点で、96%の断水が解消しているとされますが、各家庭への宅内配管 の修理が終わっていないため水を使えない住宅も未だ多く、不便な生活や避難所生活を続けている方も多いようです。災害救助法に基づく仮設住宅の入居は、一部市町では11月 にずれこむ見込みで、倒壊住宅の解体も2025年秋までかかるといわれるなど、街の復興は遅れています。(本欄の数字は2024年7月末時点のもの)
さて、TV等のマスメディアでは住宅の倒壊映像が多数、映し出されています。実際に現地調査へ行くと、もちろん、被害数の多さに愕然とするのですが、丁寧に町を廻ると、 旧耐震といわれる1981年以前の古い伝統的構法の住宅であっても、軽微な損傷で持ちこたえ、住み続けている住宅もありました。つまり、有効な耐震補強・修繕によって深刻な 被害を回避した住宅も存在しているということです。そこで、インテグラルでは、どのような木造住宅が地震に強かったのか、はたまた、弱かったのかについて、多角的な視点で 調査を進めてきました。この目的に照らし、本調査は未だ道半ばといえますが、地震発生後7か月の現時点における報告とし公表するものです。(今後は随時、内容を追加・更新していきます。)
以下、この調査の概要を述べます。
まず、インテグラルでは、2007年の能登半島地震(最大震度6強)の際にも輪島市道下地区の大規模な建物調査を行っていたことから(参考:地震被害調査2007年能登半島地震)、 このときに把握していた被害状況もふまえて、2度の大地震を経験した建物の被害状況についてまとめました。この地区では、2度の大地震を経て、2007年の被災以降に耐震補強を行っていたにも 関わらず倒壊してしまった伝統的構法の住宅も確認されました。そこで、その補強内容について、施主のご協力を得て、ホームズ君「耐震診断Pro」で検証させていただきました。本事例は大変残念なことですが、 全国に存在する類似の伝統的構法住宅について効果的な耐震補強方法を検討するための1つの参考となれば幸いです。
また、今回の地震では、一般の伝統的構法住宅だけでなく、重要文化財にも甚大な被害がありました。具体的には、重伝建地区の重要文化財「旧角海家住宅」が全壊しました。これについて、 インテグラルでは「石川県指定有形文化財角海家住宅及び土蔵修理工事報告書」(輪島市教育委員会発行)を参考に、ホームズ君「耐震診断Pro」による検証を行いました。結果、精密診断法1「方法1」「方法2」 と精密診断法2「限界耐力計算による方法」、いずれの診断法においても上部構造評点が不足していることがわかりました。重要文化財について、文科省は「重要文化財(建造物)耐震診断指針」の見直しを予定している とのことです。重要文化財は、建築基準法の適用外ではありますが、今後は、2000年以降の基準法に盛り込まれている耐震性の知見を活かした検討になるよう、見直されるきっかけになればと思います。
街づくり・街並みの観点でも、被害状況の調査を行いました。輪島市馬場先通りと七尾市一本杉通りについてです。いずれも、行政が修景整備事業を策定して、伝統的な街並みの維持を働きかけていた地域で、 「いしかわ景観大賞」を受賞しています。しかしながら、今回の能登半島地震で大きな被害を受けました。そこで、インテグラルの調査チームが整理した多くの被害写真を通じて状況を概観することで、伝統的修景の保存についても、 今後の参考になればと思います。
最後に、あまり報道されていない事実にも目を向ける必要があります。被害のほとんどない公営住宅が複数あったのです。具体的には、穴水町の公営住宅(1989年、2007年竣工)や、輪島市営マリンタウンの戸建住宅 (2008年竣工、2007年能登半島地震に伴う復興型仮設住宅)です。これらの住宅の多くは2000年改正建築基準法で、築年が新しいというだけでなく、公営住宅法に基づいているため、一般の住宅より高い性能が確保されていた 可能性が考えられます。また、インテグラルでは調査できていませんが(今後、国交省より詳しい情報が出てくると思われます)、2000年改正基準法以降の築年数の浅い住宅であっても、被害の大きかった住宅があったそうです。 被災しなかった住宅、被災した住宅について、その要因について、詳しく知ることはより一層重要になってきています。
本調査のまとめとして、数百年に1度発生すると想定されてきた大地震が、実際には十数年~数年に1度の頻度で、日本全国どこでも起きているという事実を考慮し、どのような地域の、どのような築年数の住宅であっても、 耐震診断、および、耐震設計のレベル、補強内容を慎重に検討する必要があるといえます。一部の自治体では一般診断でもOKとしていますが、私たちは、より精度の高い精密診断法1で行うことが重要だと考えます。(参考:2012年評点の傾向と2004年評点の比較 <分析3> 評点比較(一般診断VS精密診断))
本調査が、住宅の設計、改修に関わる技術者のみなさまの参考になれば幸いです。
2024年7月
株式会社インテグラル
能登半島地震被害調査チーム
調査報告レポート
調査全体MAP
概要
- 調査日 :2024年1月29-30日
2月2-3日、8-9日
3月17日-20日
4月3日-5日
5月8日-9日、17-18日、22日-23日
6月19日-20日 - 調査地域:石川県七尾市、輪島市、珠洲市、穴水町、能登町
富山県氷見市 - 調査者 :株式会社インテグラル 能登半島地震被害調査チーム
柳澤泰男(一級建築士・茨城県木造住宅耐震診断士)
藤間明美(一級建築士、震災建築物の被災度区分判定・復旧技術者)
落合小太郎(二級建築士)
木村良行(二級建築士)
松崎正裕(二級建築士)、宇都野直弘、木間塚政人、赤澤豪樹 - 調査目的:建物の被害状況(含む、無被害)の把握
建築被害の竣工年代別の分析他
1. 二度の大地震動にみまわれた輪島市門前町道下(とうげ)地区の被害の追跡
記事公開日:2024年7月31日2007年・2024年の地震による被害
2007年に震度6弱の地震があり、2020年からは、震度5弱~6強の大きな地震が数年おきに発生。そして、2024年1月に震度7の大地震が発生しました。 インテグラルでは、2007年の能登半島地震(最大震度6強)の際にも輪島市道下地区の大規模な建物調査を行っていたことから、このときに把握していた被害状況もふまえて、被害状況に ついてまとめました。2度の大地震を経て、2007年の被災以降に耐震補強を行っていたにも 関わらず倒壊してしまった伝統的構法の住宅も確認されました。なぜ修復したにもかかわらず、また被害が生じてしまったのか。一方、無被害の建物は何が決め手だったのか。インテグラルは独自に追跡調査をしました。
【レポート1】二度の大地震にみまわれた輪島市門前町道下(とうげ)地区の被害の追跡
動画公開日:2024年7月26日能登半島地震 調査レポート(全部) (PDF形式:20.1MB)
能登半島地震 調査レポート1「門前町道下」(PDF形式:6.2MB)
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【目 次】
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・概要/調査範囲
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・2007年、2024年の地震による被害状況
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・2007年の地震において無被害、半壊を修復した建物
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・2007年の地震後に建替え・新築した建物
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・[まとめ]被害がなかった地震に強い家とは
2. 重要文化財の旧角海家(かどみけ)住宅の被害状況とホームズ君での検証
記事公開日:2024年7月31日
今回の地震では、一般の伝統的構法住宅だけでなく、重要文化財にも甚大な被害がありました。具体的には、重伝建地区の重要文化財「旧角海家住宅」が全壊しました。これについて、 インテグラルでは「石川県指定有形文化財角海家住宅及び土蔵修理工事報告書」(輪島市教育委員会発行)を参考に、ホームズ君「耐震診断Pro」による検証を行いました。 2007年の地震後に4年と数億円の費用をかけて耐震補強を行った重要文化財である伝統建築物が、なぜ今回の地震で倒壊してしまったのか、どこが弱点だったのかを調査しました。
■概要
名称 :旧角海家住宅 所在地:石川県輪島市門前町黒島町
指定日:2016(H28)年7月25日
主屋 :木造、建築面積約330㎡、桟瓦葺
一部二階建て、一部地下一階
■経緯等
1872(M5)年 建築 1972(S47)年 県の有形文化財に指定
2007(H19)年 能登半島地震(震度6強)半壊
2009(H21)年~2011(H23)年
耐震補強を含めた保存修理工事
2009(H21)年 黒島地区が
「重要伝統的建造物群保存地区」に選定
2016(H28)年 国の重要文化財に指定
2024(R6)年 能登半島地震(震度7)により主屋が全壊
【レポート2】耐震補強した重要文化財の旧角海家(かどみけ)住宅 被害状況とホームズ君での検証
記事公開日:2024年7月26日能登半島地震 調査レポート2「旧角海家住宅」(PDF形式:4.0MB)
3. 伝統的景観・街づくり地区の被害状況
記事公開日:2024年8月9日3-1. 七尾市一本杉通り
七尾市の一本杉通りは600年以上の歴史があり、能登の伝統工芸や美しい建物が集まっています。
寄棟の町家づくりで、開口間口が大きく、柱無しの深い「通り庇」を有しています。重い瓦を柱無しで支えているのは「通し腕木」の様式で、明治以降に確立した様式が採用されています。
明治時代後半に建築された国登録有形文化財が5つも集まっていますが、本地震により大きな被害を受けました。インテグラルでは撮影した写真を元に一続きのパノラマ画像を作成し、倒壊状況を分析しました。
3-2. 輪島市馬場崎通り
輪島市の馬場崎通りは、「輪島景観重点地区修景整備事業(1996~2009年)」による補助対象地域として指定されています。
補助事業は、景観の美しさと独自性を維持し、地域の魅力を高めることを目的としています。第13回(平成18年)にはいしかわ景観大賞も受賞しました。
前述の整備で、セットバックによる道路拡幅等を行った際に、建て直した建物も多いと聞きます。
該当の建物と思われるものは被害もほとんどないように見られました。インテグラルでは撮影した写真を元に一続きのパノラマ画像を作成し、倒壊状況を分析しました。
能登半島地震 調査レポート3「一本杉・馬場崎通り」(PDF形式:5.4MB)
4. 公営住宅にみる被害状況
記事公開日:2024年8月9日一般の住宅だけでなく、公営住宅の被害状況も調査しました。調査したのは穴水、珠洲、輪島の公営住宅で、比較的築年数が浅い建物でした。公営住宅法に準拠して建築されているため、被害の少ない建物が多く、一般の住宅より高い性能が確保されていた可能性があります。
能登半島地震 調査レポート4「公営住宅」(PDF形式:1.4MB)
5. 埋立地の輪島マリンタウン(2020年以降竣工)にみる無被害の住宅
記事公開日:2024年8月9日輪島港を埋め立てて新たに整備されたマリンタウン住宅宅地も調査しました。輪島市マリンタウン街並み景観形成基準に準拠した2000年の建築基準で建設された比較的新しい住宅が建ち並んでいます。 今回の大地震では噴砂程度で、すべての住宅が外観上は無被害でした。
能登半島地震 調査レポート5「輪島マリンタウン」(PDF形式:1.4MB)
6. 瓦屋根被害の状況
記事公開日:2024年8月9日能登地方で発展した能登瓦を採用している建物が多く、今回の地震では屋根瓦の被害も多数確認されたました。一方瓦の落下被害がなかった 建物も多く見られました。その多くは最新のガイドライン工法で施工された屋根瓦を使っており、古い工法で作られた瓦屋根との被害の大きさは対照的でした。
能登半島地震 調査レポート6「瓦屋根被害」(PDF形式:2.0MB)
7. その他の地区の被害状況
記事公開日:2024年8月9日鳳至上町<輪島市>、珠洲市正院町、珠洲市宝立町、和倉温泉<七尾市>では、古い木造家屋が多く、そのほとんどが倒壊してしまいました。 海に近いエリアはさらに津波の被害にも遭い、古い建物だけでなく新しい建物でも大きな被害がありました。一方、地震被害がほとんどない、ある施設がありました。
能登半島地震 調査レポート7「その他の地区」(PDF形式:2.8MB)
東京都市大学 大橋好光名誉教授コメント(2024年1月28日)
能登半島地震による建築物や住宅の被害状況の調査については、まだこれからという段階ですが、非常に大きな被害があったことは、皆様、報道等で見聞きされていることと思います。
そこで、現段階までの情報をもとに、インテグラルが日頃より木質構造、耐震技術等の面で技術指導をいただいている、東京都市大学 大橋好光名誉教授よりコメントをいただきましたのでここに掲載いたします。
(以下抜粋、全文はこちらより)
能登半島地震による被災者の皆様に、心より哀悼の意とお見舞いを申し上げます。地震により、またこのような大きな被害が生じたこと、建物の耐震の関係者として残念でなりません。この地震に関して、私なりに次の3点をコメントしたいと思います。
1.やはり「大地震」は何度もくる
1月1日16時10分に発生した地震は、マグニチュード7.6。図1、図2はその地震の震度分布を示している。最大震度は7。これ以上の震度はない、最上級の震度だ。また図2より揺れが本州全体に広がっていることが分かる。また震源は16kmの深さと伝えられている。マグニチュードが大きく深さが浅い、まさに直下型の大地震である。
日本で、地震の揺れによって大きな被害を生じた地震には、1948年の福井地震(マグニチュード7.1)、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災、マグニチュード7.3)などがある。また、記憶に新しい2016年4月の熊本地震はマグニチュード7.3、深さ12km。いずれもマグニチュードが7.0を超え、震源が浅い、直下型という共通点がある。
そして、熊本地震で示された「大地震は何度もくる」が、能登半島地震でも繰り返されている。熊本地震では、震度7が2回、震度6強が2回、震度6弱が3回、震度5強が4回発生した。今回も、1月6日までに震度7が1回、6弱が1回、震度5強が7回発生している。震度6強、6弱が熊本地震より少ないのは、本震がマグニチュード7.6と大きく、地震のエネルギーの大部分が本震で発散されたためとも考えられる。逆にいえば、それだけ今回の本震が強烈だったのだ。
ちなみに、能登地方では、2022年6月に震度6弱、2023年5月に震度6強の地震も発生している。「建築基準法の想定する大地震」は、せいぜい震度6強の下の方である。震度7は想定していない。地震活動の活発な地震群では、建築基準法の想定する程度の「大地震」は、1回ではすまないと考える必要がある。
出典:【地震調査研究推進本部】令和6年能登半島地震の評価(2024.1.15)
2.耐震改修と「みんなで住む家」
3.新築建物は「大地震でも倒壊しない建物にしよう」
地震概要
過去の大地震との比較
阪神・淡路大震災 | 東日本大震災 | 熊本地震(本震) | 能登半島地震 | ||
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地震発生日時 | 1995年1月17日 5時46分 |
2011年3月11日 14時46分 |
2016年4月16日 1時25分 |
2024年1月1日 16時10分 |
|
最大震度 | 7 | 7 | 7 | 7 | |
マグニチュード | 7.3 | 9.0 | 7.3 | 7.6 | |
震源の深さ | 16km | 24km | 12km | 16km | |
最大加速度 | 818ガル | 2,933ガル | 1,791ガル | 2,828ガル | |
震央 | 淡路島北部 | 三陸沖 | 熊本県熊本地方 | 石川県能登地方 | |
人的被害数 | 死者 | 6,434人 | 18,493人 | 211人 | 260人 |
行方不明者 | 3人 | 2,683人 | 0人 | 3人 | |
重軽傷 | 43,792人 | 6,217人 | 2,746人 | 1,323人 | |
建物被害数 | 全壊 | 104,906棟 | 128,801棟 | 8,682棟 | 8,408棟 |
半壊 | 144,274棟 | 269,675棟 | 33,600棟 | 21,296棟 | |
2006年5月19日情報 | 2013年3月11日情報 | 2017年3月14日情報 | 2024年6月25日情報 |