地震被害調査 平成19年(2007年)新潟県中越沖地震

新潟県中越沖地震の被災地の皆様には心よりお見舞い申し上げます。

地震概要(気象庁速報値)

地震概要(地図)

※震度6弱以上のもの
(1)本震
発生日時 2007(平成19)年7月16日 10時13分頃
震央 新潟県上中越沖(北緯37.33度、東経138.36度、深さ17㎞)
地震の規模 (マグニチュード)6.8
(2)余震
発生日時 2007(平成19)年7月16日 15時37分頃
地震の規模 (マグニチュード)5.8

〔被害の状況〕
地震動は、新潟県上中越沖を震源とする地震があり、新潟県長岡市と柏崎市、刈羽村、長野県飯綱町で震度6強、新潟県上越市、小千谷市、出雲崎町で震度6弱を 観測した。また最大加速度は1019ガルを記録し(気象庁発表)、能登半島地震の石川県輪島市で1034ガル、新潟県中越地震の新潟県川口町で1722ガ ルを記録しており、今回の地震は両地震の値を下回った。
また人的被害として死者10名、負傷者は1842 名、 建物の被害としても全壊1,046棟、半壊1,600棟、一部破損18,410棟(※総務省消防庁 平成19年(2007年)新潟県中越沖地震(第34報)より 平成19年7月31日15時30分現在)に及んだ。

調査概要

調査(新潟県柏崎市地区)

調査日 2007年7月21日(金)及び2007年7月22日(土)
調査地 新潟県柏崎市
調査者 柳澤泰男他1名
写真及び詳細 [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10]

建物倒壊分析マップ

新潟県中越沖地震調査報告(2007/07/31)

株式会社インテグラル 代表取締役 柳澤泰男

はじめに

2007/7/16 また震度6強を記録する大地震が発生した(新潟県中越沖地震)。つい4ヶ月前の2007/03/25にも輪島市を中心とした震度6強の能登半島地震、ほんの3年前である2004/10/23にも新潟県川口町を震源とした震度6強から震度7の大地震(新潟中越地震)が発生している。まさに震度6強の地震が頻発しているといえる。
今回地震に見舞われた柏崎市は、3年前の新潟中越地震で大きな被害を受けた川口町や小千谷市から直線距離で30km程しか離れておらず、地震被害の深刻さ を非常に身近に感じた地域でもあったはずだ。しかしながら、その教訓(耐震化)は全く活かされておらず、自治体の発表によれば今春からはじまった耐震補強 工事の補助制度の利用は皆無であったとのこと。
阪神大震災以後、耐震偽装等もあり「耐震診断」という言葉は市民権を得たといえる。しかし、肝心の「耐震補強工事」は、一向に進んでいないのが現状であ る。今度こそ今回の地震を教訓に、全国民レベルで「耐震補強工事」「耐震化促進」に真剣に取り組むべきであると痛感した。

調査結果と考察

被害の概況(東本町、西本町、新花町、諏訪町近辺)

東本町3丁目付近や西本町、新花町等のアーケード街は大きな被害を受けていた。
建物が古いことと、店舗併用住宅なので開口部が多く壁が少ないことが原因である。
歩道も段差が出来ており仕上げブロックが押し上げられ散乱しており、変形が激しい。
市内の道路もいたる所で段差、陥没等が多数みられた。
石積み塀またはブロック塀もいたる所で崩壊している。
ほとんどのものは無筋と思われる。
石積みにおいては鉄筋入りもあったが、鉄筋の絶対量が不足していたと思われる。
ブロック塀全体が基礎から倒壊転倒しているものも散見された。
過去の地震において、塀の倒壊の下敷きにより多くの被害者が出たこともあったが、今回の地震も地震発生が平日の通勤通学の時間帯であったら、多くの被害が出ることが容易に想像される。
木造建物においては、土葺瓦と土壁の古い住宅において多くの被害が見受けられた。
店舗併用住宅や倉庫や車庫としているものも多くが全半壊していた。
寺社建築物においても多くの被害が見受けられた。
早急に耐震化を講じないと日本の文化と密接な関係にある寺社建築が地震のたびに失われていく。
非木造建物においては、液状化現象により被害を受けたものを除けば、上部構造体において被害が見受けられたものは少ない。
一部において、ねじれの残留変形がみられるものがあった。
海岸の近くでは、液状化現象による地盤の変形よる被害が多い。
比較的新しい木造住宅においても基礎に被害があったものが見受けられた。


被害のあった木造建物の特徴と考察

今回被害にあった建物の特徴は新聞報道的に言えば「屋根の重い、古い木造住宅(倉庫、納屋を含む)」となる。
ここで、能登半島地震と同様の分析を行うものとする。
2004年改訂版「木造住宅の耐震診断と補強方法」(国交省監修、財日本建築防災協会発行)に即した耐震診断法(一般診断法、精密診断法1)では、建物の耐震性には様々な条件が影響するが、特に大きく影響するものとして、以下がある。


  1. 地盤(Ⅰよい、Ⅱ軟弱地盤)
  2. 基礎(Ⅰ健全な鉄筋コンクリート、Ⅱ無筋、Ⅲ他)
  3. 建物重量(Ⅰ軽い、Ⅱ重い、Ⅲ非常に重い)
  4. 建物形状(建物短辺長さ Ⅰ6m以上 Ⅱ6m未満)
  5. 壁(耐力壁、筋かい等)の多さ、強さ
  6. 壁の配置バランス
  7. 柱頭柱脚の接合部(Ⅰ基準金物 Ⅱ基準金物 Ⅲ釘打ち)
  8. 部材の劣化(Ⅰ劣化なし Ⅱ部分劣化 Ⅲ著しい劣化)

今回大きな被害を受けた建物について上記観点から分析すると以下の通り。


  • 柏崎市一帯の地盤は液状化現象が多数見られたように、砂質系地盤であり、いわゆる(Ⅱ軟弱地盤)であった。
    特に海岸近くでは、上部建物には被害はなくても、基礎部分が浮き上がっているものが多数見受けられた。

  • ほとんどの建物は、屋根は土葺瓦屋根、壁は土壁という、(Ⅲ非常に重い建物)ものであった。

  • 建物形態としては、一般的な住宅の他、店舗併用住宅、住宅で車庫を併設しているもの、倉庫、納屋等、壁の少ない(開口部が多い)(壁の配置バランスが悪い)ものが多かった。

  • ほとんどの建物は、1981年以前に建てられた建物であり、「壁量が不足、接合部が緊結不足」していると思われる。
    1981年の建築基準法改正の際に、建物に必要とされる壁量が大幅に引き上げられた。
    そのため、それ以前の基準で建てられた建物のほとんどは現在の基準で判断すると壁量不足となる。
    同様に以前は現在の基準法で定めるような接合部金物などは存在せず、多くが釘打ちやほぞ差しであり、接合部が緊結されていない。

  • ほとんどの建物は、築年数50年以上の古い建物であり、(Ⅱ部分劣化 または Ⅲ著しい劣化)していた。

多少乱暴ではあるが、今回全半壊した建物を一般診断法の評点であらわすと、どんなに高いものでも評点0.6程度、低いものでは0.15程度と思われる。評点が1.0以上と推定されるものでは、当然ながら被害にはあっていない。(但し、海岸沿いにおいては上部構造体が健全でも、液状化現象により地盤基礎において注意を必要とするものが多数ある)
また、倒壊しなかった建物はすべて評点0.6以上であったかというと、そうではない。
一般診断法の評点では、0.3から0.6程度と推定される建物でも、倒壊しなかった建物も多い。
そういう意味では、評点は一つのものさしであり、万能ではないことも理解しておきたい。


同じ震度6強でも建物の全半壊率は大きく異なる。

今回の地震は4ヶ月前の能登半島地震と、地震の規模や震度において共通点が多く(能登半島地震:M6.9、震度6強  中越沖地震:M6.8、震度6強)、被害状況を比較してみる。
被害の集中した柏崎市の中心部を調査し感じたことは、能登半島地震で同じ震度6強を計測した輪島市門前町や道下地区との木造住宅の被害の状況の違いであ る。能登半島地震で被害の大きかった道下地区においては、建物の3割程度が全半壊していた。(町全体が、同じような構法、同じ年代の建物が多い)
一方、柏崎市東本町地区西本町地区においては、全半壊した建物は1割程度と推測される。同じ震度6強であっても、全半壊率には大きな差がある。
被害にあった木造建物の特徴はほぼ同じ(前述)であるので、同じ震度6強であっても、被害状況は地震によってケースバイケースであると言える。言い換えれば、単純に、震度より被害状況を類推するのは非常に乱暴なことであると言える。


もっと甚大な被害をもたらす「震度6強の地震」がある。

今回の地震は震度6強であったが、震度階的には、木造住宅の被害は想定より比較的少なかったように感じる。
国は耐震基準(1981年建築基準法改正)として、「極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7程度)に対しても、人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないこと」を目標としている。
今回の地震で、「震度6強の地震による被害はこんなもの」と断定するのは非常に危険である。
たまたま今回は被害が想定よりは少なかったが、それは同じ震度6強でも地震力には幅があり、また木造住宅への被害を左右する震動特性(周期)においても様々であるからだ。
より甚大な被害をもたらす震度6強の地震の発生する可能性が大であることを、肝に銘じたい。

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